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最高裁判所大法廷 昭和28年(あ)56号 判決 1956年10月24日

主文

被告人柄谷重治を除くその余の被告人等の上告を各棄却する。

原判決中被告人柄谷重治に対する部分を破棄する。

被告人柄谷重治を懲役六月に処する。

被告人柄谷重治に対する公訴事実中昭和二五年政令三二五号違反の点について同被告人を免訴する。

第一審において、証人北村幸、同中田匡統、同林吉弘、同津島岳雄、同恩智茂徳、同平佐知香子、同船本敬之、同金沢弘、同寺井宗雄、同百北勇、同曽根崎辰男、同野上誉富、同大道亮典、同三宅守、同中村省三、同赤羽桓、同川口定次郎、同調忠男、同西村貞男、同藤井昭三、同東川正三、同西巻嘉次に支給した訴訟費用は、被告人柄谷重治とその余の被告人等との連帯負担とし、第二審において、弁護人滝川与一郎に支給した訴訟費用の十二分の一、及び当審において弁護人佐藤義弥に支給した訴訟費用の五分の一は被告人柄谷重治の負担とする。

理由

被告人等の弁護人山本治雄の上告趣意第一点について。

第一審判決の確定した事実によれば、被告人豊田、同島、同畑中の三名は判示の如く判示会社に勤務していた者、他の被告人九名は、右会社の職員でもなく、同会社労働組合員でもないものであるが、同会社は、被告人豊田、同島を含む同会社従業員一三名に対し、所論解雇通知並びに同会社への立入禁止の通告をしたので同会社労働組合側では、右解雇通知の当否を調査し、不当なものについては、法定の手続によって、救済を求むべく事後の対策を協議中のところ、右解雇並びに立入禁止の通告を受けた被告人豊田、同島及びこれを聞知した爾余の被告人一〇名は、会社の右措置を不当として、同会社の承諾は勿論、組合の諒解も得ず、同会社本社四階屋上を実力を以って占拠し、同会社従業員及び通行人に対し、右通告の不当なことを訴え、組合の右解雇通知に対する闘争態勢を強化して会社をして、右措置を撤回せしめようと企図し、被告人等全員共謀の上、判示懸垂幕一本及び判示目的の花火、燐寸多数を携行し、同会社庶務課長の管理にかかる同会社本社構内にほしいままに立入ったというのである。それ故、被告人等が同会社本社構内に立入ったのは正当な理由があって立入ったものではなく、同会社の意に反し、不法に右構内に侵入したものであること明らかであって、所論解雇通知が正当有効であるか否かに拘らず被告人等の所為が建造物侵入罪を構成すること論をまたない。されば、原判決が、右解雇通知が不当のものであったとしても、被告人等の所為が建造物侵入罪を構成すること明らかで、正当行為として是認する理由はない旨判示したのは正当であって、所論(一)は採用できない。又被告人等は前記のごとく同会社労働組合が所論解雇通知の当否につき調査し事対の対後について協議中であったにも拘らず、組合とかかわりなく右行動に出たのであって、被告人等の右行動は、団体行動権の行使ではないから、所論(二)の憲法違反の主張はその前提を欠き適法な上告理由とならない。

同第二点について。

裁判官真野毅、同小谷勝重、同島保、同藤田八郎、同谷村唯一郎、同入江俊郎の意見は、昭和二五年政令三二五号「占領目的阻害行為処罰令」は、平和条約発効と同時に当然失効し、その後に右政令の効力を維持することは、憲法上許されないから本件中右政令違反の点については犯罪後の法令により刑が廃止された場合にあたるとするものであること、昭和二七年(あ)第二八六八号同二八年七月二二日言渡大法廷判決記載の右六裁判官の意見のとおりであり、又裁判官栗山茂、同岩松三郎、同河村又介、同小林俊三の意見は、右政令三二五号は、平和条約発効後においては、本件に適用されている昭和二〇年九月一〇日附連合国最高司令官の「言論及び新聞の自由」と題する覚書第三項の「連合国に対する虚偽又は破壊的批評及び風説」を「論議すること」を禁止する部分は憲法二一条に違反するから、右指令を適用するかぎりにおいて、平和条約発効と共に失効し、従って、本件中右政令違反の点は犯罪後の法令により刑の廃止があった場合にあたるとすること、昭和二七年(あ)第二〇一一号同三〇年四月二七日言渡大法廷判決記載の栗山、岩松、河村、小林各裁判官の意見のとおりである。よって以上一〇裁判官の意見によれば、本件中右政令違反の点は犯罪後に刑が廃止されたときにあたるから原判決中被告人柄谷重治に関する部分はこの点において破棄しなければ著しく正義に反するものと認める。

同第三点について。

所論は、事実誤認、量刑不当の主張を出でないものであって、刑訴四〇五条所定の上告理由にあたらない。

被告人仲江敏彰の上告趣意について。

所論は、寛大な処分を望むというのであって、同条所定の上告理由にあたらない。

よって、被告人柄谷重治を除くその余の被告人等に対しては刑訴四一四条、三九六条に則り、各上告を棄却し、被告人柄谷重治に対しては、刑訴四一一条に従って原判決中同被告人に関する部分を破棄し、刑訴四一三条に則り更に判決するのであるが、第一審判決の確定した事実を法律に照らすと、同判決判示第一の(一)の所為は刑法一三〇条、六〇条に、同第一の(四)の所為中公務執行妨害の点は、同法九五条一項、六〇条に、傷害の点は同法二〇四条、六〇条に各該当するところ、右公務執行妨害と傷害とは一個の行為で数個の罪名に触れるので同法五四条一項前段、一〇条により重い傷害罪の刑に従い、以上は同法四五条前段の併合罪であるから所定刑中いずれも懲役刑を選択し、同法四七条本文但書、一〇条により、重い傷害罪の刑に、法定の加重をした刑期範囲内で、同被告人を懲役六月に処し、同判示第二の昭和二五年政令三二五号違反の点は、犯罪後の法令により刑の廃止があったものであるから、刑訴三三七条二号に則り同被告人を免訴すべく、訴訟費用の負担につき刑訴一八一条、一八二条を適用し主文のとおり判決する。

この判決は、昭和二五年政令三二五号違反の点に対する裁判官田中耕太郎、同斎藤悠輔、同本村善太郎の反対意見及び刑訴四〇〇条但書の適用に関する裁判官栗山茂、同真野毅、同小谷勝重、同谷村唯一郎、同小林俊三の少数意見があるほか、裁判官の一致した意見によるものである。

昭和二五年政令三二五号違反の点に対する裁判官田中耕太郎、同斎藤悠輔、同本村善太郎の反対意見は、次のとおりである。

平和条約発効前に犯した昭和二五年政令三二五号違反の罪に対する刑罰は平和条約発効後といえども、廃止されたものといえないことは前記昭和二七年(あ)第二〇一一号の大法廷判決記載のわれわれの意見のとおりである。

なお、本件に対する裁判官の各補足意見は前記昭和二七年(あ)第二〇一一号の大法廷判決に記載乃至引用したとおりである。

刑訴四〇〇条但書に対する裁判官栗山茂、同真野毅、同小谷勝重、同谷村唯一郎、同小林俊三の少数意見は次のとおりである。

職権により調査するに原判決は、第一審が本件被告人等に言渡した懲役刑の執行猶予の判決を破棄自判し、懲役の実刑を言い渡したのであるが、記録によれば、その手続は書面上の調査のみによったのであって、事実の取調を行った形跡は認められない。このように第一審の執行猶予を附した判決を第二審において破棄し自判によってこれを実刑に改めるには自ら事実の取調を行うことを要し、さもなければ第一審に差し戻すべきものである。この点において原判決は違法たるを免れないから破棄すべきものである。

なお裁判官栗山茂、同小谷勝重、同谷村唯一郎、同小林俊三は、昭和二六年(あ)第一六八八号同三〇年六月二二日大法廷判決(判例集九巻八号)において述べた少数意見をそれぞれここに引用するほか、裁判官小林俊三は昭和二七年(あ)第五九七号同二九年六月八日第三小法廷判決(判例集八巻六号八二一頁)において述べた少数意見を引用する。

裁判官霜山精一、同井上登は退官につき評議に関与しない。

(裁判長裁判官 田中耕太郎 裁判官 栗山 茂 裁判官 真野 毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎 裁判官 入江俊郎)

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